がり、いわゆる猫かわいがりにかわいがる心持ちがだんだんにわかって来るような気がした。ある西洋人がからすを飼って耕作の伴侶《はんりょ》にしていた気持ちも少しわかって来た。孤独なイーゴイストにとってはこんな動物のほうがなまじいな人間よりもどのくらいたのもしい生活の友であるかもしれないのだろう。
不思議な事にはあれほど猫ぎらいであった母が、時々ひざにはい上がる子猫を追いのけもしないのみならず、隠居部屋《いんきょべや》の障子を破られたりしてもあまり苦にならないようであった。
四
わが家に来て以来いちばん猫の好奇心を誘発したものはおそらく蚊帳《かや》であったらしい。どういうものか蚊帳を見ると奇態に興奮するのであった。ことに内に人がいて自分が外にいる場合にそれが著しかった。背を高くそびやかし耳を伏せて恐ろしい相好をする。そして命がけのような勢いで飛びかかって来る。猫にとってはおそらく不可思議に柔らかくて強靭《きょうじん》な蚊帳《かや》の抵抗に全身を投げかける。蚊帳のすそは引きずられながらに袋になって猫のからだを包んでしまうのである。これが猫には不思議でなければならない。ともか
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