くも普通のじゃれ方とはどうもちがう。あまりに真剣なので少しすごいような気のする事もあった。従順な特性は消えてしまって、野獣の本性があまりに明白に表われるのである。
蚊帳自身かあるいは蚊帳越しに見える人影が、猫には何か恐ろしいものに見えるのかもしれない。あるいは蚊帳《かや》の中の青ずんだ光が、森の月光に獲物をもとめて歩いた遠い祖先の本能を呼びさますのではあるまいか。もし色の違ったいろいろの蚊帳《かや》があったら試験してみたいような気もした。
じゃれる品物の中でおもしろいのは帯地を巻いておく桐《きり》の棒である。前足でころがすのはなんでもないが棒の片端をひょいと両方の前足でかかえてあと足でみごとに立ち上がる。棒が倒れるとそれを飛び越えて見向きもしないで知らん顔をしてのそのそと三四尺も歩いて行ってちょこんとすわる。そういう事をなんべんとなく繰り返すのである。どういう心持ちであるのか全く見当がつかない。
二階に籐椅子《とういす》が一つ置いてある。その四本の足の下部を筋かいに連結する十字形のまん中がちょっとした棚《たな》のようになっている。ここが三毛の好む遊び場所の一つである。何か紙切れの
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