うな事をして苦しんでいた。蛙《かえる》が煙草《たばこ》をなめた時の挙動とよく似た事をやっていた。それ以来はもう口をつけないでただ前足で蛙《かえる》の頭をそっと押えつけてみたり、横腹をそっと押してみたりしては首をかしげて見ているだけであった。愚直な蝦蟇《ひきがえる》は触れられるたびにしゃちこ[#「しゃちこ」に傍点]張ってふくれていた。土色の醜いからだが憤懣《ふんまん》の団塊であるように思われた。絶対に自分の優越を信じているような子猫《こねこ》は、時々わき見などしながらちょいちょい手を出してからかってみるのである。
困った事にはいつのまにか蜥蜴《とかげ》を捕《と》って食う癖がついた。始めのうちは、捕えたのは必ず畳の上に持って来て、食う前に玩弄《がんろう》するのである。時々大きなやつのしっぽだけを持って来た。主体を分離した尾部は独立の生命を持つもののように振動するのである。私は見つけ次第に猫を引っ捕えて無理に口からもぎ取って、再び猫に見つからないように始末をした。せっかくの獲物を取られた猫はしばらくは畳の上をかいで歩いていた。蜥蜴をとって食うのがどうしていけないのか猫にわかろうはずがなかっ
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