開いて腹をぴったり芝生《しばふ》につけて、ちょうどももんがあ[#「ももんがあ」に傍点]の翔《かけ》っているような格好をしている事もあった。たぶん腹でも冷やしているのではないかと思われた。
 芝を刈っているといつのまにか忍んで来て不意に鋏《はさみ》のさきに飛びかかるのが危険でしようがなかった。注意しながら刈っていると、時々、猫がねらっている事を警告する子供の叫び声が聞かれた。この芝刈り鋏に対する猫の好奇心のようなものはずっと後までも持続した。もう紐切《ひもき》れやボールなどにはじゃれなくなった後でも、鋏を持って庭におりて行く私の姿を見るとすぐについて来るのであった。どうかすると、しゃがんでいる腰の下からそっとはいって来て私の両ひざの間に顔を出したりした。そしてちょっと鋏に触れるとそれで満足したようにのそのそ向こうへ行って植え込みの八つ手の下で蝶《ちょう》をねらったり、蝦蟇《ひきがえる》をからかったりしていた。
 蝦蟇ではいちばん始めに失敗したようである。たぶん食いつこうとしてどうかされたものと見えて口から白いよだれのようなものをだらだらたらしながら両方の前足で自分の口をもぎ取りでもするよ
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