にしか受け取られないように見えるのである。
それはそうと、私はうちで猫《ねこ》を飼うという事に承認を与えた覚えはなかったようである。子猫をもらうという事について相談はしばしば受けたようであるが積極的に同意はまだしなかったはずであった。しかし今眼前にこの美しいそして子供子供した小動物を置いて見ているうちにそんな問題は自然に消えてしまった。
子猫がほしいという家族の大多数の希望が女中の口から出入りの八百屋《やおや》に伝えられる間にそれが積極的な要求に変わってしまったらしい。突然八百屋が飼い主の家の女中といっしょに連れて来たそうである。台所へ来たのを奥の間へ連れて行くとすぐまた台所へかけて行って、連れて来た人のあとを追うので、しばらく紐《ひも》でつないでおこうかと言っていたが、連れて来た人がそれはかわいそうだからどうか縛らないでくれというのでよしたそうである。夜はふところへ入れて寝かしてやってくれという事も頼んで行ったそうである。私が見に来た時はもうかなり時間がたってよほど慣れて来たところであったらしい。
もとの飼い主の家ではよほどだいじにして育てられたものらしい。食物などもなかなかめ
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