ったなものは食わなかった。牛乳か魚肉、それもいい所だけで堅い頭の骨などは食おうともしなかった。恐ろしいぜいたくな猫だというものもあれば、上品だといってほめるものもあった。膳《ぜん》の上のものをねらうような事も決してしないのである。
子供らの猫《ねこ》に対する愛着は日増しに強くなるようであった。学校から帰って来ると肩からカバンをおろす前に「猫は」「三毛は」と聞くのであった。私はなんとなしにさびしい子供らの生活に一脈の新しい情味が通い始めたように思った。幼い二人の姉妹の間にはしばしば猫《ねこ》の争奪が起こった。「少しわたしに抱かせてもいいじゃないの」とか「ちっともわたしに抱かせないんだもの」とか言い争っているのが時々離れた私の室《へや》まで聞こえて来た。おしまいにはどちらかが泣きだすのである。私は子供らがこのためにあまりに感傷的になるのを恐れないわけには行かなかった。
猫もかわいそうであった。楽寝のできるのは子供らの学校へ行っている間だけである。まもなく休暇になるともう少しの暇もなくなった。大きい子らは小さい子らが三毛をおもちゃにしているのを見ると、かわいそうだから放してやれなどと言っ
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