る。海の中にもぐった時に聞こえる波打ちぎわの砂利《じゃり》の相摩する音や、火山の火口の奥から聞こえて来る釜《かま》のたぎるような音なども思い出す。もしや獅子《しし》や虎《とら》でも同じような音を立てるものだったら、この音はいっそう不思議なものでありそうである。それが聞いてみたいような気もする。
畳の上におろしてやると、もうすぐそこにある紙切れなどにじゃれるのであった。その挙動はいかにも軽快でそして優雅に見えた。人間の子供などはとても、自分のからだをこれだけ典雅《グレースフル》に取り扱われようと思われない。英国あたりの貴族はどうだか知らないが。
それでいて一挙一動がいかにも子供子供しているのである。人間の子供の子供らしさと、どことは明らかに名状し難いところに著しい類似がある。
のら猫の子に比べてなんという著しい対照だろう。彼は生まれ落ちると同時に人類を敵として見なければならない運命を授けられるのに、これははじめから人間の好意に絶対の信頼をおいている。見ず知らずの家にもらわれて来て、そしてもうそこをわが家として少しも疑わず恐れてもいない。どんなにひどく扱われても、それはすべてよい意味
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