びたひわ茶色の金属光沢を見せたが、腹の美しい赤銅色《しゃくどういろ》はそのままに見られた。
三 杏仁水
ある夏の夜、神田の喫茶店へはいって一杯のアイスクリームを食った。そのアイスクリームの香味には普通のヴァニラの外に一種特有な香味の混じているのに気がついた。そうしてそれが杏仁水《きょうにんすい》であることを思い出すと同時に妙な記憶が喚び起されて来たのである。
中学四年頃のことであったかと思う。同級のI君が脚気《かっけ》で亡くなったので、われわれ数人の親しかった連中でその葬式に行った。南国の真夏の暑い盛りであった。町から東のO村まで二里ばかりの、樹蔭一つない稲田の中の田圃道《たんぼみち》を歩いて行った。向うへ着いたときに一同はコップに入れた黄色い飲料を振舞われた。それは強い薬臭い匂と甘い味をもった珍しい飲料であった。要するにそれは一種の甘い水薬であったのである。もっともI君の家は医家であったので、炎天の長途を歩いて来たわれわれ子供たちのために暑気払いの清涼剤を振舞ってくれたのである。後で考えるとあの飲料の匂の主調をなすものが、やはりこの杏仁水であったらしい。
明治二
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