るとこれらの機械的鳥獣の自由な活動が始まるであろう。
「太平洋爆撃隊」という映画がたいへんな人気を呼んだ。映画というものは、なんでも、われわれがしたくてたまらないが実際はなかなか容易にできないと思うような事をやって見せれば大衆の喝采を博するのだそうである。なるほどこの映画にもそういうところがある。いちばんおもしろいのは、三|艘《ぞう》の大飛行船が船首を並べて断雲の間を飛行している、その上空に追い迫った一隊の爆撃機が急速なダイヴィングで小石のごとく落下して来て、飛行船の横腹と横腹との間の狭い空間を電光のごとくかすめては滝壺《たきつぼ》のつばめのごとく舞い上がる光景である。それがただ一艘ならばまだしも、数えきれぬほどたくさんの飛行機が、あとからもあとからも飛びきたり飛び去るのである。この光景の映写の間にこれと相《あい》錯綜《さくそう》して、それらの爆撃機自身に固定されたカメラから撮影された四辺の目まぐるしい光景が映出されるのである。この映画によってわれわれの祖先が数万年の間うらやみつづけにうらやんで来た望みが遂げられたのである。われわれは、この映画を見ることによって、われわれ自身が森の樹間
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