ある日の経験
寺田寅彦

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【テキスト中に現れる記号について】

《》:ルビ
(例)少し勿体《もったい》ない

|:ルビの付く文字列の始まりを特定する記号
(例)丁度|悪戯《いたずら》をして

[#]:入力者注 主に外字の説明や、傍点の位置の指定
(例)しみじみ[#「しみじみ」に傍点]と「胸」に滲み込んでくる
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 上野の近くに人を尋ねたついでに、帝国美術院の展覧会を見に行った。久し振りの好い秋日和で、澄み切った日光の中に桜の葉が散っていた。
 会場の前の道路の真中に大きな天幕張りが出来かかっている。何かの式場になるらしい。柱などを巻いた布が黒白のだんだらになっているところを見ると何かしら厳かな儀式でもあるように思われる。このようにして人夫等が大勢かかって、やっとそれが出来上がったと思う間もなく式が終って、またすぐに取りくずさなければならないであろう。
 博覧会の工事も大分進行しているようである。これもやはりほんの一時的の建築だろうが、使っている材木を見るとなかなか五十年や百年で大きくなったとは思われないような立派なものがある。なんだか少し勿体《もったい》ないような気がする。こ
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