のした事や考えた事なんかは、すべてがただ小さな愚かな、時代おくれの「虚栄心」の変種かもしれない。
 しかしともかくも私はちょっと意外な事に出逢ったような気がしてならなかった。而《しか》してこういったような商人がそこらに居るという事が何だかちょっと愉快なことのようにさえ思われたのである。

 宅《うち》へ帰って昼飯を食いながら、今日のアドヴェンチュアーを家人に話したが、誰も一向何とも云ってくれなかった。
 庭に下りて咲きおくれた金蓮花とコスモスを摘《つ》んだ。それをさっき買った来た白釉の瓶に投げ込んで眺めているといい気持になった。これを眺めているうちにも、また展覧会の童女の像を思い出した。あれは実に美しい。何とも云われないしみじみと美しい絵である。あれに比べると外の多くの騒がしい絵は、云わば腹のへっているのに無闇に大きな声を出しているような気のするものである。真に美しいものは大人しく黙っている。しかしそれはいつまでも見た人の心に美しい永遠の響を留める。そしてその余韻は、その人の生活をいくぶんでも浄化するだけの力をもっている。こういう美しいものを見たときと見なかった時とで、その後に来る吾人
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