ようなものかと思われた。
 問題を分析するとつぎのようになる。
 問題。(一)宅の近所のA家は新聞所載のA家と同一か。(二)同一ならばその家の猫Bと、宅の庭で見かけた猫Cと同一か。(三)そうだとすれば宅の白猫DはそのB=C猫の血族か。
 これに対して与えられた事実与件《データ》は(1)Aという名前の一致。ただし近所のA家に西洋猫がいるかどうかは不明。(2)新聞の写真のB猫とC猫との肖似。ただし記憶だけで他に実証なし。(3)BCとDとの幾分の肖似。(4)新聞記事によると、B猫が不良で夜遊び昼遊びをして困るという飼主夫人の証言。これだけである。この(1)(2)(3)(4)いずれも当面の問題に対しては実に貧弱なデータで、これだけからなんらの確からしい結論も導き出せないことは科学者を待たずとも明白なことである。しかし、われわれの「人情」と「いわゆる常識」はこの(1)(2)(3)(4)から(一)(二)(三)を肯定しようとする強い誘惑を醸成する。
 その後、出入りの魚屋の証言によって近所のA家にもやはり白い洋種の猫がいるという一つの新しい有力なデータを加えることは出来た。しかし、東京中で西洋猫を飼
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