諸々の理想を創造する人間の力が永く進化の一要素であり、現在に於ける唯一の問題は『如何にせばこの力が進化中にあつて有益なる一動力となされ得るか』といふことであるのを忘却してゐる。
人種の改善に力を傾注すると云ふことは『恋愛と結婚』の中に私が説明して置いた通り現在の渾沌たる恋愛の状態より単一個人的恋愛に至る橋梁を架設するが如きものである。これは又恋愛がその不合理なる性質を免かるる唯一の道である。ゲーテは且て『恋愛に於て凡《すべ》ては冒険である、何故なれば凡てが機会にのみ待たれなければならないからである』と云つた。併しながら全てこれは未だ発見せられざる法則に対する他の名称に過ぎない。何時か我々は霊肉の愛情的不調和並びに或る人々の間に存する心理的不調和が消滅するの日に到達するであらう。何故なれば最高の幸福を経験せんとする事は万人の欲求であるからである。而して最高の幸福は心理的必然から多くの小なる感情を除去する寛大なる感情によつてのみ達せられるのである。然しながら前途は未だ極めて遼遠である。而してその間にあつてある人々はある個人に対して彼等の理想の完全なる体現を求めて得ざりしがために幾度も恋す
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