欠乏を痛感してゐるからである。それのみが只だ人類の精神を豊富にする。それを把まずしては女子の大多数は単に職業的自働機械と化し終つてしまふのである。
 斯《か》くの如き状態の来るべきことは、かの倫理学の領域にあつて、当然男子が女子に卓越した時代の多くの遣物が尚ほ残存してゐるといふことを明らかにした人々によつて夙《つと》に先見せられた。而してその遣物は今なほ有益であると考へられてゐる。更らに重要なる事は、解放せられたる婦人の大多数がその遣物を必用としてゐることである。現存せるあらゆる制度を破壊し社会を更らに進歩せる、更らに完全なるものに改めんとする運動は理論に於て最も急進的思想を抱いてゐる人々によつて行なはれてゐる。然しながら彼等はそれに反し、その日常の行為に於ては月並の俗人と変ることなく体面を装ひ、反対者の讚同を得んことを頻《しき》りに求めてゐる。仮令《たと》へば「財産は盗奪なり、」といふ思想を代表してゐる社会主義者或は無政府主義者の中にすら留針半ダース程の価を返済しないといふので怒り出す者がある。
 同型の俗人が又婦人解放運動中にも発見せられるのである。黄色新聞雑誌記者或は浮薄なる文士
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