己の青年と未来の衛生状態に関して会話する。而して汚れたるボロを打捨て、石の壁と床を使用することによりて多くの黴菌が駆除せらるるといふことなどを話す。彼女は勿論甚だ質素に実用的な服装をしてゐる。衣物の色はたいてい黒である。青年は彼女との最初の会合に於て解放せられた友人の智識に敬服する。彼は次第に彼女を理解しやうとする。而してあるうららかな日に、彼はとう/\彼女を愛してゐるといふ意識を持つ。彼等は二人とも若い。女は親切で美しい。たとへ服装はキチンと整ひすぎてはゐるが一点の汚れもない白いカラアとカフスによつて柔かい感じを与へてゐる。読者は青年が彼女に恋を打明けることを期待するであらう。然し彼は馬鹿/\しきローマンスを実行するやうな人間ではない。詩と恋の情熱とはその婦人の純潔なる美の面前に紅葉する顔を被《おお》ふてしまふ。青年は自己の自然の声を黙殺して方正な態度をとる。彼女もまたいつもキチヨウメンで、理性的で、品行方正である。若《も》し彼等が結合を作つたなら、青年は恐らく凍死するの危険を冒さなければならなかつたかも知れないと私は気づかつてゐる。私はこの新しき美人に何等の美を発見する事が出来ない
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