のです。みんなが苦しみながら、でもまだ、谷中に残っているのは、一つはそのためでもあるんです。今いる人達の間にもいったんは他へ行って、また戻ってきた人などもあるんだそうです。」
買収に応じた人達も、残った人達に劣らぬ貧困と迫害の中に暮さなければならなかった。最初はいいかげんな甘言にのせられて、それぞれ移住して、ある者は広い未開の地をあてがわれて、そこを開墾し始めた。しかし、それは一と通りや二通りの困難ではなかった。長い間朝も晩も耕し、高い肥料をやっても、思うような耕地にはならなかった。収穫はなしわずかばかりの金はなくなる。人里遠い荒涼とした知らない土地に、彼らは寒さと飢えにひしひし迫られた。ある者は、たまたま住みよさそうな処に行っても、そこでは土着の人々からきびしい迫害を受けなければならなかった。彼等のたよりは、わずかな金であった。その金がなくなれば、どうすることもできなかった。土を耕すことより他には、何の仕事も彼等は知らないのだ。耕そうにも土地はないし、金はなくなるといえば、彼等はその日からでも路頭に迷わねばならなかった。そうしたはめになって、ある者は再び惨めな村へ帰った。ある者は何
前へ
次へ
全69ページ中29ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
伊藤 野枝 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング