。また、彼の利己主義に絶望してはいませんでした。私もまたそれに同感していました。
けれども、私の日常生活においては、彼との距離はだんだん遠くなってきました。私は子供を抱えていると、世間に対してはだんだん積極的な心持になってくるのでした。そしてこの私共が相反した道に進むのと同じに、母のTに対する不満もだんだんにひどくなってき、それが私にも及ぶようになってきたのです。私共一家の者の心持はみんなそれぞれに別になってきました。
Tの心持がますます隠遁的になり、母の気持が露骨になるにつれて、私は時々、ひとりの生活を夢想するようになりました。私はその時分から、自分の結婚を悔やむような心持になりかかっていたのでした。そしてこの心持はTがたよりないと思うほどつのってくるのでした。どうかすると、私は家の中に満ちている不快からいっぺんに解放されるためにはどうかしてひとりになろうというつきつめた心持から子供を背負って出て見た事もあったくらいです。
しかし、私をこうした心持に導くのもいつも子供でしたが、この心持を抑えるのも不思議にまた子供だったのです。それと、もう一つはTのあの深いメランコリアです。私は
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