にこたえ、考えが一つ一つ自分だけの考えになってきたのは、子供を生んでからでした。子供が出来てからようやく私は一人前になったのです。私は子供がどんなに可愛かったかしれません。そして子供の母親として観、子供の母親として考えるすべての事は以前とはだんだんちがってきました。
彼の頑固なまでの利己的態度をはっきり見得るようになったのはその子供に対する態度からでした。私は子供が少しずつ育ってくるにつれて、彼にはとうてい頼れないと思ったのでした。自分がどんなに無力であるかを考えると私は心細くてたまりませんでした。しかし子供を持った三十を越した男が、今もまだ、自分が何をしていいか分らないといって手をこまねいているのを見ると情なくもなりましたが、どうかして自分がしっかりしなくてはならないのだという心持に鞭韃されるのでした。
私のこの心持が強くなってくると同時にTの心持はますます隠遁的になってくるのでした。彼は家の中の、私と母との間のちょっとした感情のこじれやその他のチョッとした事にも、自分が口を出すことを厭がるようにまでなったのです。それでも、私はまだ、彼と別れようなどと思ったことはなかったのでした
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