、始終私を苦しめました。そして、そのTの名前に対するチョイチョイした軽侮が私にはだんだん悲しいような腹立たしいような気持になってきたのです。続いてまた、彼が少しも自ら何の努力もしない事がはがゆくなってきたのでした。
しかし、Tの気持はもうこの時にいい加減こじれていたのです。彼はただ極端なエゴイスティックな自分の心持の中にだけ自分の生活を見出していたのです。どんな事実も、彼に対他的な激情を起こさす事はむずかしいのでした。それに私の気がついた時には、もう彼はそこから動こうとはしなかったのでした。
私は、かなり長い間、彼のこの感情にならされたのでした。私は一種のあきらめで彼の生活にくっついていたのです。
たまに、何かの事から、彼を非難する事はあっても、理屈を持ってこられると私はもう何にもいい得ないのでした。そうしてとにかくかなり長い間私は辛抱して、彼を見ていたのです。私ばかりではなく、彼の母も、兄妹も。そして母や兄妹は今も同じで彼を見ているにちがいありません。彼と別れた私はもう何にも、気にはかからなくてもいいのです。けれど、私は、私の子供の父親として、折々彼の生活に私の心持が引っかかる
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