Tと憎み合いにらみ合って暮らさなければならない日がくるかもしれないという事を考えずにはいられませんでした。世間にはずいぶんそんな夫婦がたくさんありますから。けれどもこんな両親がどうして子供の幸福の対象になりましょう。子供等はかえってそんな事には敏感で悲しい場合が多いと私は思います。そしてまた、よく子供のためにいいとか悪いとかいいますが、何が果たして幸福であり何が不幸になるか、容易に他から差し出てきめる事は出来ないと思います。私は子供を見棄てたというのでずいぶん非難されました。しかし、私はそんな事を非難する人は本当にどれほど母親が子供を愛するかを充分に考え得ない人だと思います。私には、たとえどれほどの気強さを持っても打ち克つことの出来ない愛に苦しめられている母親をその上まだ鞭打つなどという事は出来ません。
どんなに子供には気の毒な事でも可愛想な事であっても、私はTとは離婚しなければならなかったのです。私の別れなければならない理由は明白であり正しいものであると信じる事が出来る以上は、私は正しく行動します。子供は事理をわきまえる事が出来るようになれば理解してくれるに違いないのです。私達が親
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