私の積極的な気持から、私の対社会的な考えが一変したのです。そしてこの考えは、ある時Tの主我的な考えとかなり激しくぶっつかり合いました。私はそこにますますTとの相違をはっきり見たのでした。
 例えば、ある注意すべき事件が持ち上がりました。それは現在の社会の欠陥なり不徳なりを充分露骨に現わしているとします。私はそれに対してすぐに心からの憤りを感じます。そしてたとえ自分の力がどれほど微弱なものであるとしても、その不法に対してブツかって行きたいという衝動を感じます。どうしても怒らずにはいられないのです。しかしTはちがいます。彼はそんな事が在るは当然の事として、それが自分の力でどうなるのだ、といって平気で見のがす事が出来るのです。自分が馬鹿な目に会わないようにすることだ。こういいます。可哀そうな目に会う奴は、それだけの力しか持たないからだ。自分を保てないからだ、といいます。弱い奴が強い奴に負けるのはあたり前だといいます。
 私はTを充分理解し肯定しながらも自分の考えをそこに持ってゆくことは出来ませんでした。やがて私の考えは、だんだんにTと自分との差異の点にばかりこだわるようになりました。
 こう
前へ 次へ
全22ページ中12ページ目


小説の先頭へ
文字数選び直し
伊藤 野枝 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ 登録 ご利用方法 ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング