して拭いても拭いても涙が湧いてきて、立っていられなくなってくる。燈をつけても燈の色までが恐ろしく情ない色に見えた。読む書物をもって出なかったことがしきりに悔いられた。うすらかなしい燈の色を見つめながら、彼女はいつも目をぬらして友達を待った。それでもなお悲しい心細い考えが進もうとする時は、彼女はのがれる時に持って出た光郎の手紙を開いて読んでは紛らした。そうして心弱い自分の気持ちをいくらかずつ引きたてるのだった。
今朝も志保子が出て行った後で登志子は考えることより他に何にもすることがなかった。本当に、いつまでも志保子の世話になってここにいる訳にはいかない、ということが第一に毎日登志子の頭に上ってくるのだ。が今どうするにしても金の問題だ。登志子は初め帰ったとき予め自分の考えをもしかして実行する時の用意に、十円近くの金を懐にしていた。しかしその金は七十日近くブラブラしているうちに、なにかと半分以上も使ってしまった。しかもそういう予期を持ちながらいよいよ出てくるときは不用意に、フラフラと出てしまった。着更えの着物を持たず金を用意するひまもなくついと出てしまった。福岡まで出てきて、叔母の家へも友
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