試みをしたというような、どこか快い気持等はまるで失くなってただ暗い気持ちになって、また父の傍に泣いて帰って行こうかというような気になったり、また、いっそう深く考えを進めると、もう死を願うより他仕方がないとさえ思う日もあった。
 志保子は注意ぶかく登志子の様子を観ていた。彼女は登志子が夕方など沈んだ目付をして縁側にボンヤリ立っていた夜は、きっと近所の子供を集めて騒がしたりして登志子の気持ちをまぎらすようにつとめた。しかしそういう時にかぎって彼女は、さらに、深い、いうにいえない寂しさ遣瀬なさに悩むのであった。そうしては志保子の美しい澄んだ目にはっきり浮かぶ、優しい暖かい友情にしみじみ泣いた。
 どうかして志保子の帰りの遅い時には、登志子は二度も三度も門を出てはすぐそこに見える学校の屋根ばかり眺めていた。黄色な菜の花の間に長々とうねった白い道を見ていると、遠いその果もわからない道がいろいろなことを思わせて、つい涙ぐまれるのであった。前を通る人達は見なれぬ登志子の悄然と立った姿をふしぎそうにふり返って見て行く。そんな時登志子は、もう本当に遠い遠い知らない所にたった一人でつきはなされたような気が
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