かし俺は無論そんなことは眼中にはないのだ。俺はただ汝が帰国する前になぜもっと俺に向って全てを打ち明けてくれなかったのだとそれを残念に思っている。少なくとも先生へなりと話しておけば、俺等はまさか『そうか』とその話を聞きはなしにしておくような男じゃあない。それは女としてそういうことは打ち明けにくかろう。しかしそれは一時だ、汝が全てを打ち明けないのだからどうすることもできないじゃあないか。しかし問題はとにかく汝がはやく上京することだ。どうかして一時金を都合して上京した上でなくってはどうすることもできない。俺は少なくとも男だ。汝一人くらいをどうにもすることができないような意気地なしではないと思っている。そうしてもし汝の父なり警官なりもしくは夫と称する人が上京したら、逃げかくれしないで堂々と話をつけるのだ。俺は物を秘かにすることを好まない。九日付の手紙をS先生に見せたのも一つは俺は隠して事をするのが嫌だからだ。姦通などという馬鹿馬鹿しい誤解をまねくのが嫌だからだ。イザとなれば俺は自分の立場を放棄してもさしつかえない。俺はあくまで汝の味方になって習俗打破の仕事を続けようと思う、汝もその覚悟でもう少
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