品性に対してどれ程恐しい価を払つてゐるかといふ事はまるで問題にもしてゐない。私どもは今更進んでこの悲しい事実を証拠立てる必要はない。
 政府の腐敗と堕落とがあばかれて今の様にはつきりと目前に示されたことはこれまでにないことである。数年の間、人民の権利自由の保護者と仰がれ、社会制度の本綱として全然誹難の外に立つてきた政府がか程迄にユダの如き性質を現はさうとは私どもの全く思ひ設けなかつたところである。
 かの党派の罪悪が次第に厚顔になつてきて盲人さへそれを見分けることが出来るやうになつた時、彼等は自党に対する阿諛《あゆ》追従者を頻《しき》りに召集するの必要に迫られた。而《しか》してその権勢は愈々《いよいよ》確立せられた。幾度となく欺かれ、裏切られ、蹂躙《じゅうりん》せられた犠牲者等はひたすら勝利者のためにのみ計つた。困惑せる少数者はこの時、亜米利加《アメリカ》の自由はどうしてこの様に多数者のために裏切られたのであるか?と訊ねた。かくの如きことを敢へて行つた多数者の判断と推理力とは何処にあつたのであらう? 多数者には推理などいふことは出来ないのだ。判断などいうものは皆無なのだ――ただそれのみ
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