い間|所謂《いわゆる》結婚制度なるものを保存したのはこの男尊説に対する奴隷的黙従である、今や女は真に主人の恩恵から離れた存在物として自覚し初めた。そして神聖な結婚制度は次第に顛覆されつつある。そしてどんな感傷的悲哀もそれをとどめることは出来ない。
 一般の娘等は大抵幼少から結婚が彼女の最終目的であると語られる。だから彼女の訓練と教育とはその目的に向つて導かれなければならない。口のきけない動物が屠殺の為めに肥らせられるやうに、彼女はその為めに用意される。けれど、可笑《おか》しいことには、彼女が妻や母としての職務に就て知ることを許されてゐるのは、普通の工人がその職に関してよりはずつと僅少である。立派な少女が結婚関係に就て知るのは無作法で野卑だと云ふのだ。オゝ、その尊厳の矛盾の為め、結婚誓約を必然に不潔なものから最も純潔な最も神聖な取り極めに転じて、何人も敢へてそれを尋ね、或は批判することを許さない。けれどそれが確かに結婚主張者の一般の態度である。未来の妻と母とは性と云ふ争先的範囲に於ける彼女の唯一の財産に関して全く無智にされてゐる。かくして彼女は或男と一生の関係に這入り込んで、発見するのは
前へ 次へ
全18ページ中6ページ目


小説の先頭へ
文字数選び直し
伊藤 野枝 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ 登録 ご利用方法 ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング