彼女は袴をとりだした。祖母は今着いたばかりの孫娘の、元気のない真青な顔を見るといとしそうに、
「オーそうだろう、長い旅でも汽車の中ではようねむられん、お母さん床を出しておやり」
と眉をよせながら、後から抱えんばかりに登志子と一緒に立った。
叔母と母は何となく手持無沙汰らしくそこに坐っている永田に気の毒らしく、
「おばあさんがあれなので、どうも――本当にわがままで――」
と叔母は取ってつけたようなお世辞笑いをしながら、永田を慰めるような詫びるような心持でいった。永田も仕方なしの笑いを報いて、だまってそこらを見まわした。
慧眼な祖母は、去年の夏気に入らない婚約をされて以来ことさらにはげしくなった登志子のわがままが心配でたまらなかった。そして、今日登志子がどんな気持ちで帰ってきたかもよく知っていた。だから彼女が家に入ってきたときの様子からいろいろな点で、彼女が嫌いぬいている永田にあくまでわがままを通さないではおかないというあの気性で、どんな態度に出たかということは見ないでも察しがついていた。叔母は、このおとなしい青年を前にしていると何よりもまず自分の大嫌いな理屈っぽい生意気な姪のわがまま
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