った。安子はまき子の家に泊ることになったので登志子と永田とが一緒に帰るのだ。挨拶をしてまき子の家の門口を出るや否や登志子は、後もふりむかずに出来るだけ大いそぎに袴の裾を蹴って歩いた。彼女は永田が彼女の態度に不快を感じているということは充分に承知していた。しかし身震いの出るほどいやなもの声を聞くのもいやだった。肩をならべて歩くことなんかとても出来ない。登志子はひたいそぎにいそいだ。それでもおとなしい永田はてくてく彼女の後からついてきた。登志子はもうなるべく追いつかれないように懸命になって急いだ。永田はとうとうこらえきれずに、
「登志さんは馬鹿に足が早いんだね」といった。登志子は返事することも出来なかった。
 家では祖母が出たりはいったりして彼女を待っていた。駈け込むように家にはいると、そこに母や祖母などのなつかし気な笑顔が並んで彼女を迎えた。一家中の温い息が登志子の身辺に集まって、彼女のはりつめた心がようようにほぐれかけた。しかしそこにまだ永田がいると思うと、泣きたくなった。いろいろな皆の言葉もすこしも耳には入らない。
「私大変疲れていますから夜になるまで少し寝ますよ」
 わがままらしく
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