んでした。そんなくらいなので彼の読み物をさがすのは、Gには大きな一つの重荷でした。獄中の同志に書物を差入れるということは、何でもない簡単なことのように見えて、実はこれほど厄介な骨の折れることはないのです。どうでもいい、ただ読むものを入れてやる、というのならばまだしもです。少しでもみになるように無駄をしないように、囚人としての心の環境から考えの中に入れてするのは本当に一仕事です。その骨の折れる差入れの仕事でも、Gは「これほど骨の折れることはない」とよくこぼしていました。
 が、Yはいっこう無頓着で、いいたいだけのわがままを遠慮なく、というよりはむしろ彼の持ちまえのあまりな図々しさで押しつけました。彼は日頃から公言していたように、牢にはいれば、同志はどんなにしてでも彼の世話をしてもいいはずだという考えしか持っていなかったのです。彼は未決監にいる間、できるだけのわがままをしつづけました。
 その間にOは捕えられたり放たれたりして、とうとう最後のコヂつけで未決にいましたが、一審が終わると同時に保釈で出ました。が、Yは一審の判決がすむとすぐ既決に下って中野の監獄に送られました。
 彼はそこで六ケ
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