のです。そして、少しもだまっていることのできない彼が、そのじっとしているに堪え切れないその健康すぎるほど活力に満ちた体を抱いて、小さな檻房の中に押し込まれているのです。そのことを思いやると、本当に可哀そうでした。
よく同志の世話の行き届くGは、彼のためにその弱い体を運んで面会をしては彼の面倒を見ました。Yには、印刷した仮名がやっと読めることがわかりました。で、Gは一生懸命に振り仮名をした恰好な書物を入れてやったりしました。しかし、Yはもうその時にかなり耳学問で頭が進んでいました。それで、彼によさそうな書物は、どんな初歩のやさしいものでも振仮名をした本というのはなかなかないのでした。あまりやさしいものだと、彼は何の考えもなく怒りました。
振仮名を拾って大骨を折ってする彼の読書の辛さを思いやって、Gはある時、肩のこらぬ面白そうなものを、というので、講談に近い、「西郷隆盛」か何かを差し入れたことがありました。彼はそれを喜んで読むかと思いの外、彼は非常に怒りました。「講談本なんぞを入れて貰うと看守共が馬鹿にする」というのです。彼のこの子供らしい単純な見栄にはみんなただ笑うより仕方がありませ
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