得ました。そしてその時初めて、五年間どのような事があっても唯の一度も口にしたことのない「別居」を申し出ました。しかし、この要求はいろいろな情実の下に遂げられませんでした。そうして、その情実を無理に退けて進むには、私はあまりに多くの未練と愛着を過去の生活に持ち過ぎました。二人が相愛の生活を遂げるために払った価が、まだ余程高価なものに思われました。そうしたことを考え始めますと、押し切って自分の決心を断行するという勇気はどうしても出てきませんでした。
けれども、その時から私の深い苦悶が始まりました。かつて、私達が軽蔑した状態に自分達がならねばならないということは何という情ないことでしょう。自分をも他人をも欺むくことの出来ない二人が、お互いに、自分達二人を結びつけるものに絶望しながら、それを自覚しながら、過去に対する未練や、現在の生活にからみついた情実や、単純な肉体に対する執着等によって、なお今まで通りの関係を続けようとする、その醜い感情を脱する事の出来ない自分を嘲りながら、それに引きずられて、どうすることも出来ないというのが情ない事でなくて何でしょう。
さらにもう一つの事は子供の事でした
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