ないようにしたいという私の心弱さから、いつでも黙って忍びました。そして、私の家庭はかなり平和な日を送ることができました。そうして、また、そういう安易な日が続くことは自分にも慣れてきて、たいていはその平和に油断をしていました。けれども些細なことでも、ちょっと隙き間がありますと、種々な不平が一時に頭をもたげ出しました。けれども私は、いつでもそういう場合にはすぐに避難をする処をもっておりました。それは、辻に対する愛でした。私はいつでもそこに逃げ込みました。そうして、私のその避難所が世間並みの安易な「あきらめ」などのような弱いものでなく、充分に信をおく事のできるしっかりしたものであることを誇りにしていました。
 しかしちょうど一年あまり前に、私のいちばん大事なその信は、無造作に奪われてしまいました。いくら躍起になっても一度失くなったものは再びけっして帰ってはきませんでした。そしてその事は、私にとってはたいへんな打撃でした。けれども私は、その打撃によって自分をどう処置するかということを考えなければなりませんでした。そうして、私は非常な苦痛を忍んだ後に、出来るだけ完全な自分の道を歩こうという決心を
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