それを冗談として取り消してしまおうと思いました。けれども、私は現在の自分を振り返って見ましたとき、それを単純に取り消してしまうつもりになってすましてはいられませんでした。辻に対する私の持っているというその愛にその時始めて疑いを持ちました。私は自分の気持が自分ながらたしかに解らないので二三日苦しみました。それは今まで私が大杉さんに持っていた親しみは、単純なフレンドシップ以外の何物でもないと思っていましたのに、急にそれが恋愛に進んだということが、非常に不自然に感じられましたから。もっともそれには、二人の態度にはお互いに曖昧な、ふざけた調子を多分に持っていましたので、私はすぐに大変自分の態度について自分を責めなければなりませんでした。そうして、私は、ちょうど私の気持が安定を失して、どこかに落ちつき場所を見出そうとして無意識に待ちかまえていた、その機会を見出したのだと思いました。そして、どこまでも大杉さんとの間を、フレンドシップで通そうと思いました。
辻とは、すぐに別れる決心がその場で出来たのです。で、私はすべてのそれに対する気持を辻に話そうと思いました。それには話をして、なおいろいろな詰問を受けるようなことを残しておきたくないという例の私の負け惜しみから、まず大杉さんと自分とのことに釘をさしておいてからにしようと思いました。それで、私はすぐに、大杉さんに会いにゆこうと思いました。そしてそうきめた翌日出かけました。私はそのとき、自分のその事については非常に軽い気持ちで会うつもりでした。ところが私は、神近さんにそこで出会いました。そうして、三人で話を始めましたときに、私が考えていたよりは、たいへんに重大な事件だということを感じ始めました。それをその時まで、私は大杉さんと私、ということよりも、辻と私ということにばかり考えを向けていて、大杉さんについてはそれほど深く考えようとしなかったのです。ところが、これは神近さんにとってたいへんな問題であるのは無理のない話です。そうして私は、今度は当然そのことについて考えなければなりませんでした。私はその日、この問題はしばらく持ち越すつもりだということをいい残して別れました。
その時の私のつもりでは、一刻も早く辻との別居を実行して、それから大杉さんに対しての自分の態度をきめたいと思ったのでした。しかし、この気持はすぐに破れました。それは第
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