全部自分で使ひ、寿枝には一銭も渡さず、しかも家の費用はすべて寿枝が自分の金で賄《まかな》つてゐた。だから修一の金は少しも減らないと寿枝はひそかに田辺の妹に愚痴つてゐたが、それでも修一が家にをらないとやはり寂しかつた。修一は宿直と出張の口実を設けて月の半分は家をあけ、どうやら看護婦を相手にしてゐるらしかつた。寿枝は修一の留守中泊りに来てくれるやうにと、楢雄に手紙を出した。楢雄はやつて来て、寿枝の顔に、薄く白粉《おしろい》の粉が吹きだしてゐることよりも、髪の毛がバサバサと乾いてゐることの方を見て寿枝を千日前へ連れて行つて映画を見せたりした。下宿で随分切り詰めた暮しをしてゐるらしく、げつそりと青く痩せてゐる楢雄の横顔を見て、寿枝はそつと涙を拭いたが、しかし何日か泊つて下宿へ帰る日が来ると、楢雄はその何日分かの飯代を寿枝に渡した。何といふ水臭いやり方かと寿枝は泣けもせず、こんな風にされる自分は一体これまでどんな落度があつたのかと、振りかへつてみたが、べつに見当らなかつた。
 楢雄は煙草は刻みを吸ひ、無駄な金は一銭も使ふまいと決めてゐたが、ただ小宮町へ行つた帰りにはいつも天満《てんま》の京阪マー
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