痩せた達磨さんテあれへんわ。」
鏡を見て喜美子はひとり笑ったが、しかし、やがてそんな冗談も言っておれぬくらい、だんだんに衰弱して行った。
道子がやっと女専を卒業して、大阪の喜美子のもとへ帰って来たのは、やがてアパートの中庭に桜の花が咲こうとする頃であった。
「お姉さま、只今、お会いしたかったわ。」
三年の間に道子はすっかり東京言葉になっていた。喜美子はうれしさに胸が温《あたた》まって、暫らく口も利けず、じっと妹の顔を見つめていたが、やがて、いきなり妹の手を卒業免状と一緒に強く握りしめた、その姉の手の熱さに、道子はどきんとした。
「あら、お姉さまの手、とっても熱い。熱があるみたい……」
言いながら道子は、びっくりしたように姉の顔を覗きこんで、
「……それに、随分お痩せになったわね。」
「ううん、なんでもあれへん。痩せた方が道《みち》ちゃんに似て来て、ええやないの。」
喜美子はそう言って淋しく笑ったが、しかし、その晩喜美子は三十九度以上の熱をだした。道子は制服のまま氷を割ったり、タオルを絞りかえたりした。朝、医者が来た。肋膜を侵されているということだった。
医者が帰ったあとで、
前へ
次へ
全13ページ中3ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
織田 作之助 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング