と、呟いたのとちょうど同じ時刻――
 豹吉は大阪の北の空を仰いで、同じ星が流れるのを見ながら、ふと、
「――雪子!」
 と、呟いていた。
 そして、ペッと唾を吐き捨てた。南の盛り場でドジを踏んで、警官に追われたが、さすがにつかまるようなドジだけは踏まず、どこをどう逃げたか、まんまと警官をまいてしまって、大阪の北へ現れた豹吉である。
 まいてしまったことは、ちょっとした自尊心の満足だったが、しかし、たった一つ残念だったのは、あの靴磨きの兄弟が自分を呼び停めようとして追いかけて来た時、立ち停ってやらなかったことであった。
 追われていたのだから、致し方がないというものの、しかし、そんなに警官につかまるのが怖かったかと思うと、われながら心外だった。
 いつもの豹吉なら、そんなに狼狽しなかった筈だ。そんなに警官を怖れなかった筈だ。
「ところが、今夜のおれと来たら……」
 と、豹吉は自分の醜態にあいそがつきるくらいだった。
「――なぜ、こんなに怖れるのか」
 と、考えて、豹吉はどきんとした。人を殺したからだ。
 早朝、渡辺橋の横で魚を釣っていた男(読者にはもはや明瞭と思うが、実は伊部恭助である)
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