残して、阿倍野橋の宿屋を出た小沢は、阿倍野橋から地下鉄に乗って、大阪駅まで行った。
そして、駅の東出口の横にある荷物の一時預け所へ行き、引換えのチケットを出そうとして、はじめてそれが無くなっていることに気がついた。
あわてて、あちこちポケットを……裏返しにまでしてみたが、ない。
「おかしい。落したのかな」
まさか掏られたとは思えなかった。
「チケットを落したんですが……」
と、小沢はもう探すことは諦めて、係員に言った。
「――チケットなしでも渡して貰えますか」
「渡せんな」
香車で歩を払うような、ぶっ切ら棒な返事だった。
「預けた品はわかってるんですが……」
「ふん、どうせ闇のもンやろ」
小沢はむっとした。が、声は柔く……というより、むしろ情けない調子で、
「昨日復員したばかしで、実はその荷物なんです。毛布は麻繩を掛けたやつですから、見ればすぐ……あ、そうだ、名前もついている筈です。小沢十吉です」
「なんや、復員の荷物か」
係員は吐きだすように言った。
「そうです」
小沢は腹が立つというより、むしろ情けなかった。
こういう所の人々の中によくある妙に威張った態度は、戦争
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