のね」
小沢がだまっているのを見て、娘はもう一度その言葉を言った。
小沢は黙々と立ち上った。そして怒ったような顔をして娘の横へもぐり込んだ。寝台には若い娘の体温と体臭がむうんとこもっていた。
寝台は狭かったので、体温が伝わってきた。
小沢は娘の寝巻の下が、裸であることを意識しながら、かえって固くなっていた。
娘の方から寝台へ誘ったのだし、そして、べつにそれを拒みたい気もなかったので、少しはいそいそとしてそれに応じたのだし、今はもう二人があり来たりの関係に陥るには、簡単なきっかけだけが残っているに過ぎなかった。
例えば、ちょっと腕を伸ばせば、娘の体は磁石のように吸い寄せられて来るのだ。それを拒もうとする羞恥心よりも、何かにすがりつきたいという本能の方が強いというのが、女の本性であることを、小沢は知っていた。
好奇心は女の方が強いのだ。しかも若い娘の場合は、一層はげしいのだ。
そう知っていながら、小沢はしかし腕を伸ばせなかった。いわゆるインテリの気の弱さであろうか。
一つには、娘の正体がまったく解らないということも、小沢を自重させていた。それに、娘の方から寝台へ誘ったとい
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