人ですか」
「いや、女と一緒です」
「どうぞ……」
新円の効き目だった。
小沢は娘を呼びに出た。
そして、娘を自分の背中にかくすようにして、はいった。
女中はちらりと娘をみたが、さすがに連込み宿らしく、うさん臭そうな眼付きもせず、二階の部屋へ二人を案内した。
鍵の掛る、粗末なダブル寝台のある洋風の部屋だった。
女中は案内すると、すぐ出て行ったが、やがて、お茶と寝巻を持って来た。
「お名前をこれに……」
小沢は自分の姓名を書いて渡そうとすると、
「こちらさんのお名前もご一緒に……」
と、椅子の上で体をすくめている娘の方は見ずに、女中は言った。
小沢はちらと娘の顔を見た。
「雪子……」
娘は察して言った。
小沢は自分の名前の横に「妻雪子 二十歳」と書いて、女中に渡すと、
「お休みなさい」
女中は出て行った。
小沢はほっとして、部屋の中を見廻した、寝台は一つしかなかった。その上の方に、安っぽい女の裸体画の額が掛っていた。
「なるほど、こりゃいかにも連込み宿だ」
小沢は改めて感心したように呟きながら、苦笑した。
ダブル寝台――といっても、豪華なホテルにあるような、
前へ
次へ
全141ページ中11ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
織田 作之助 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング