。まえまえから胃腸が悪いと二ツ井戸の実費医院《じっぴ》へ通い通いしていたが、こんどは尿《にょう》に血がまじって小便するのにたっぷり二十分かかるなど、人にも言えなかった。前に怪《あや》しい病気に罹《かか》り、そのとき蝶子は「なんちう人やろ」と怒《おこ》りながらも、まじない[#「まじない」に傍点]に、屋根瓦《やねがわら》にへばりついている猫《ねこ》の糞《ふん》と明礬《みょうばん》を煎《せん》じてこっそり飲ませたところ効目《ききめ》があったので、こんどもそれだと思って、黙って味噌汁の中に入れると、柳吉は啜《すす》ってみて、変な顔をしたが、それと気付かず、味の妙なのは病気のせいだと思ったらしかった。気が付かねば、まじないは効くのだとひそかに現《げん》のあらわれるのを待っていたところ更《さら》に効目はなかった。小便の時、泣き声を立てるようになり、島の内の華陽堂《かようどう》病院が泌尿科《ひにょうか》専門なので、そこで診《み》てもらうと、尿道に管を入れて覗いたあげく、「膀胱《ぼうこう》が悪い」十日ばかり通ったが、はかばかしくならなかった。みるみる痩《や》せて行った。診立て違いということもあるからと
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