に二階へ押し上げると、柳吉は天井へ頭を打《ぶ》っつけた。「痛ア!」も糞《くそ》もあるもんかと、思う存分折檻した。
 もう二度と浮気《うわき》はしないと柳吉は誓《ちか》ったが、蝶子の折檻は何の薬にもならなかった。しばらくすると、また放蕩《ほうとう》した。そして帰るときは、やはり折檻を怖《おそ》れて蒼くなった。そろそろ肥満して来た蝶子は折檻するたびに息切れがした。
 柳吉が遊蕩に使う金はかなりの額だったから、遊んだあくる日はさすがに彼も蒼くなって、盞《さかずき》も手にしないで、黙々と鍋の中を掻きまわしていた。が、四五日たつと、やはり、客の酒の燗《かん》をするばかりが能やないと言い出し、混ぜない方の酒をたっぷり銚子に入れて、銅壺《どうこ》の中へ浸《つ》けた。明らかに商売に飽《あ》いた風で、酔うと気が大きくなり、自然足は遊びの方に向いた。紺屋《こうや》の白袴《しろばかま》どころでなく、これでは柳吉の遊びに油を注ぐために商売をしているようなものだと、蝶子はだんだん後悔した。えらい商売を始めたものやと思っているうちに、酒屋への支払いなども滞《とどこお》り勝ちになり、結局、やめるに若《し》かずと、そ
前へ 次へ
全71ページ中46ページ目


小説の先頭へ
文字数選び直し
織田 作之助 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ 登録 ご利用方法 ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング