やと思い、体裁の悪そうな顔で目をしょぼしょぼさせている柳吉にほとほと同情した、と帰って女房に言った。「あれでは今に維康さんに嫌《きら》われるやろ」夫婦はひそひそ語り合っていたが、案の定、柳吉はある日ぶらりと出て行ったまま、幾日《いくにち》も帰って来なかった。
七日経っても柳吉は帰って来ないので、半泣きの顔で、種吉の家へ行き、梅田新道にいるに違いないから、どんな容子かこっそり見て来てくれと頼んだ。種吉は、娘の頼みを撥《は》ねつけるというわけではないが、別れる気の先方へ行って下手《へた》に顔見られたら、どんな目で見られるかも知れぬと断った。「下手に未練もたんと別れた方が身のためやぜ」などとそれが親の言う言葉かと、蝶子は興奮の余り口喧嘩までし、その足で新世界の八卦見《はっけみ》のところへ行った。「あんたが男はんのためにつくすその心が仇《あだ》になる。大体この星の人は……」年を聞いて丙午《ひのえうま》だと知ると、八卦見はもう立板に水を流すお喋《しゃべ》りで、何もかも悪い運勢だった。「男はんの心は北に傾《かたむ》いている」と聴いて、ぞっとした。北とは梅田新道だ。金を払って外へ出ると、どこへ行く
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