ならぬと、親の仇《かたき》をとるような気持で、われながら浅ましかった。
 さん年経つと、やっと二百円たまった。柳吉が腸が痛むというので時々医者通いし、そのため入費が嵩んで、歯がゆいほど、金はたまらなかったのだ。二百円出来たので、柳吉に「なんぞええ商売ないやろか」と相談したが、こんどは「そんな端金《はしたがね》ではどないも仕様がない」と乗気にならず、ある日、そのうち五十円の金を飛田の廓《くるわ》で瞬く間に使ってしまった。四五日まえに、妹が近々|聟《むこ》養子を迎《むか》えて、梅田新道の家を切り廻して行くという噂が柳吉の耳にはいっていたので、かねがね予期していたことだったが、それでも娼妓《しょうぎ》を相手に一日で五十円の金を使ったとは、むしろ呆《あき》れてしまった。ぼんやりした顔をぬっと突き出して帰って来たところを、いきなり襟を掴んで突き倒し、馬乗りになって、ぐいぐい首を締《し》めあげた。「く、く、く、るしい、苦しい、おばはん、何すんねん」と柳吉は足をばたばたさせた。蝶子は、もう思う存分|折檻《せっかん》しなければ気がすまぬと、締めつけ締めつけ、打つ、撲る、しまいに柳吉は「どうぞ、かんにん
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