院の外へ誘い出した。玉江橋の畔で、北田に教った通り、訳は憚るが実は今は丸亀を飛び出して無一文、朝から何も食べて無いと無心すると、赤い財布からおずおずと五円札出してくれた。死んだ文吉のことなど一寸立ち話した後、浜子は、短気を出したら損やし、丸亀へ戻って出世して六貫村へ錦を飾って帰らんとあかんしと意見した。順平はそうや、そうやと思うと、急に泣いたろという気持がこみ上げて来てぼろぼろと涙をこぼし、姉やん、出世しまっせ、今の暮しから足を洗うて真面目にやりまっさと、云わなくても良いことまで云っていると、無性に興奮して来て、拳をかため、体を震わせ、うつ向いていた顔をきっとあげると、汚い川水がかすんだ眼にうつった。浜子が小走りに病院の方へ去って了うと、どこからかオイチョカブの北田が現れて来て、高峰お前なかなか味をやるやないか、泣きたん[#「泣きたん」に傍点]があない巧いこと行くて相当なわるやぞと賞めてくれたが、順平はそんなものかなアと思った。その金は直ぐ博打に負けて取られてしまった。
 間もなく、美津子が近々に聟を迎えるという噂を聴いた。翌日、それとなく近所へ容子を探りに行くと本当らしかった。その足
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