本をはがして、連絡もなく、乱雑に重ねて厚みをつけ、もっともらしい表紙をつけ、縁を切り揃えて、月遅れの新本が出来上る。中身は飛び飛びの頁で読まれたものでないから、その場で読めぬようあらかじめセロファンで包んで置くと、如何にも新本だ。順平はサクラになったり、時には真打になったり、夜更けの商売で、顔色も凄く蒼白んだ。儲の何割かをきちんきちんと呉れるオイチョカブの北田を、順平は几帳面な男と思い、ふと女めいたなつかしさも覚えていた。
ある日、北田は博打の元手もなし売屋も飽いたとて、高峰、どこぞ無心の当てはないやろか。といったその言葉の裏は、丸亀へ無心に行けだとは順平にも判ったが、そればっかりはと拝んでいる内に、ふと義姉《あね》の浜子のことを頭に泛べた。大阪病院で看護婦をしていると、死んだ文吉が云っていた。訪ねて行くと、背丈ものびて綺麗な一人前の女になっている浜子は、順平と知って瞬間あらとなつかしい声をあげたが、どうみてもまっとうな暮しをしているとは見えぬ順平の恰好を素早く見とってしまうと、にわかに何気ない顔をつくろいどこぞお悪いんですの、患者にもの云うように寄って来て、そして目|交《まぜ》で病
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