絵は、こっそりひらいてみると下手な西洋の美人写真だったり、義士の討入りだったりする。絶対にインチキと違うよ、一見胸がときめいてなどと中腰になって、何かをわざと怖れるようなそわそわした態度で早口に喋り立て、仁が寄って来ると、先ず金を出すのがサクラの順平だ。絵心のある北田は画をひきうつして売ることもある。そんな時はその筋の眼は一層きびしい。サクラの順平もしばしば危い橋を渡る想いにひやっとしたが、それだけにまるで凶器の世界にはいった様な気持で歩き振りも違って来た。
気の変りやすい北田は売屋《ばいや》をやることもあった。天満京阪裏の古着屋で一円二十銭出して大阪××新聞の法被を仕込み、売るものはサンデー毎日や週刊朝日の月おくれ、または大阪パックの表紙の発行日を紙ペーパーでこすり消したもの、三冊十五銭で如何にも安いと郊外の住宅を戸別訪問して泣きたん[#「泣きたん」に傍点]で売り歩く。かと思うと、キング、講談倶楽部、富士、主婦の友、講談雑誌の月遅れ新本五冊とりまぜて五十銭《オテカン》、これは主に戎橋通りの昼夜銀行の前で夜更けの女給の帰りを当てこむのだ。仕入先は難波の元屋で、ここで屑値で買い集めた古
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