ン、ゴケ、ロッポー、ナキネ、オイチョ、カブ、ニゲなどと読み方も教わり、気の無い張り方をすると、「質屋《ヒチヤ》の外に荷《ニ》が降り」とカブが出来、金になった。生まれてはじめてほのぼのとした勝利感を覚え、何かしら自信に胸の血が温った。が、続けて張っている内に結局はあり金を全部とられて了い、むろんインチキだった。けれど、そうと知っても北田を恨む気は起らなかった。あくる日、北田は※[#「※」は「囗」の二画目の中に「又」を入れる、114上−6]《かねまた》でシチューと半しまを食わせてくれた。おおけに御馳走《ごっそ》さんと頭を下げる順平を北田はさすがに哀れに思ったが、どや、一丁女を世話したろか、といった。「リリアン」の小鈴に肩入れしてけっかんのやろと図星を指されてぽうっと赧くなり一途に北田が頼もしかったが、肩入れはしてるんやけどナ、わいは女にもてへんのさかい、兄貴、お前わいの代りに小鈴をものにしてくれよ。そういう態度はいつか木下にいった時と同じだったが、北田は既に小鈴をものにしているだけにかえって気味が悪かった。
オイチョカブの北田は金が無くなると本職にかえった。夜更けの盛り場を選んで彼の売る
前へ
次へ
全49ページ中30ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
織田 作之助 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング