」で五円、十円とみるみる金の消えて行くことに身を切られるような想いをしながら、それでも、高峰さん高峰さんと姓をよばれるのが嬉しくて、女給たちのたかるままになっていた。
ある夜、わざと澄まし雑煮を註文し、一口のんでみて、こんな下手な味つけで食べられるかいや、吸物というもんはナ、出し昆布の揚げ加減で味いうものが決まるんやぜと浅はかな智慧を振りまいていると、髪の毛の長い男がいきなり傍へ寄って来て、あんさんとは今日こんお初にござんす、野郎若輩ながら軒下三寸を借り受けましての仁儀失礼さんにござんすと場違いの仁儀でわざとらしいはったりを掛けて来た。順平が真蒼になってふるえていると女給が、いきなり、高峰さん煙草買いましょう。そう云って順平の雑魚場行きのでかい財布をとり出して、あけた。男は覗いてみて、にわかに打って変って、えらい大きな財布でんナと顔中皺だらけに笑い出し、まるで酔っぱらったようにぐにゃぐにゃした。男はオイチョカブの北田といい、千日前界隈で顔の売れたでん公であった。
その夜オイチョカブの北田にそそのかされて、新世界のある家の二階で四五人のでん公と博打をした。インケツ、ニゾ、サンタ、シス
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