かけてくれるなりしてくれたら思い止まりたかったが、肚の中を読んでくれないから随分張合いがなく、暫くぐずついていたが、結局、着物を着変えたからには飛び出すより仕方ない、そんな気持でしょんぼり家を出た。
あとで、叔母は、悪い奴にそそのかされて家出しよりましてんと云いふらした。家出という言葉が好きであった。叔父は身代譲ったろうと思《おも》てたのに、阿呆んだらめがと、これは本音らしかった。美津子は、当分外出もはばかられるようで、何かいやな気がして、ふくれていた。また、順平に飛び出されてみると体裁もわるいが、しかし、ほんの少し淋しい気も感じられた。しつこく迫っていた順平に、いつかは許してもよいという気があるいは心の底にあったのではないかと思われて、しかしこれは余りに滑稽な空想だと直ぐ打ち消した。
順平は千日前金刀比羅裏の安宿に泊った。どういう気持で丸亀を飛び出したのかと自分でも納得出来ず、所詮は狂言めいたものかも知れなかった。紺絣の着物を買い、良家のぼんぼんみたいにぶらぶら何の当てもなく遊びまわった。昼は千日前や道頓堀の活動小屋へ行った。夜は宿の近くの喫茶バー「リリアン」で遊んだ。「リリアン
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