で阪大病院へ行った。泣きたんで行けという北田の忠告をまつまでもなく、意見されると、存分に涙が出た。五円貰った。その内一円八十銭で銘酒一本買って、お祝、高峰順平と書いて丸亀へ届けさせ、残りの金を張ると、阿呆に目が出ると愛相をつかされる程目が出た。
北田と山分けし、北田に見送られて梅田の駅から東京行の汽車に乗った。美津子が聟をとるときいては大阪の土地がまるで怖いもののように思われたのと、一つには、出世しなければならぬという想にせき立てられたのだ。東京には木下がいる筈で、丸亀にいた頃、一度遊びに来いとハガキを貰ったことがあった。
東京駅に着き、半日掛って漸く荒川放水路近くの木下の住いを探し当てた。弁護士になっているだろうと思ったのに、そこは見るからに貧民窟で、木下は夜になると玉ノ井へ出掛けて焼鳥の屋台店を出しているのだった。木下もやがて四十で、弁護士になることは内心諦めているらしく、彼の売る一本二銭の焼鳥は、ねぎ八分で、もつが二分、酒、ポートワイン、泡盛、ウイスキーなどどこの屋台よりも薄かった。木下は毎夜緻密に儲の勘定をし、儲の四割で暮しを賄い、他の四割は絶対に手をつけぬ積立貯金にし、残
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